調和道協会会報 平成28年新年号掲載
 新春インタビュー(インタビュアー 小笹裕子理事)

日野原先生写真

Q:明けましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。

A:今年も夢の実現に向かって共に歩みをすすめましょう。

Q:会長には、ご就任以来、さまざまな場面で私ども会員を勇気づけ励まして下さるお言葉をいただきました。キーワードとして挙げられるのは「夢」「創める」というものです。昨秋104歳のお誕生日に出版された俳句の本は、どのような思いでとり組まれたのですか。

A:私は98歳のときに俳句をはじめました。昨年10月4日で私は104歳となりました。偶然にも10月4日、104歳、という数字が並び、詠んだ俳句の中から104句を選んで出版したらよい記念になるのではと思いました。

 私の俳句は、季語や約束ごとを気にせず、自由にときどきの感興を17文字に表現しています。句集には100歳から描きはじめた水彩画も載せていますので楽しんでいただければと思います。

 60歳のとき宗教哲学者マルティン・ブーバーの本を読み「老いているということは、もし人が創めるということの真の意味を忘れていなければ素晴らしいことである」という一文に出会いました。それ以来、私は何かを「はじめる」と書くときに「創める」という字を使うことがあります。年をとってもこれまでやったことがないことを創めることによってあらたなクリエイティブな世界が拓けてくるのです。

Q:ありがとうございます。ところで、会長には平成24年の正月号に「夢を創める」という言葉を色紙に書いていただきました。協会としては、同年4月に公益社団法人の移行認定を得る目処がたっており、また、前年には東日本大震災と原子力発電所の事故により、社会全体が落ち込んでいる中、その必要性を正にご教示いただいたと覚えています。お言葉に込めた思いをお聞かせ下さい。

A:私は常々「自分の運命は自分でデザインできる」と思っています。ちょうど100歳を迎えた年でしたので、100歳をゴールインとするのではなく、次に5年、10年先を目指してのスタートであるという思いを込めて書いたのです。人生は山あり谷ありです。大地震に遭遇したり、癌にかかったり脳卒中を起こすこともあります。それらは運命として自分では何ともしようがないと諦めていませんか。そうではないのです。自分の運命は自分でつくっていけるものだということを自覚し勇気をもって行動してほしいのです。

 「運命のデザイン」というと何か難しく感じられると思いますが、「創造的な夢をデザインすること」です。そして5年、10年先を念頭に入れながら夢の実現に向けて行動していくことです。単純な行動でも、それを反復して継続することで、習慣となって身につきます。そうすることで「自己実現」の道が拓かれていくのです。

 私は、さまざまな「夢」をもち、その「夢」を実現することを大切にしています。私に大動脈弁閉鎖不全症があり、一昨年から外出時には車椅子を用いますが、それでもこれまで通りに颯爽と行動しています。その詳細は昨年秋の大会でお話しましたので省略しますが、車椅子で韓国へ行き、台湾の学会にも出席しました。そして、103歳で生まれて初めて乗馬にも挑戦しました。日本動物愛護協会の依頼で御殿場の馬場に行ったのですが、そこで勧められてのことでした。新しいことに挑戦する喜びを感じている私の姿を知っていただきたい。こうした考えを勇気をもって実行に移していけば、自分を変えていくこともできると思います。

Q:ありがとうございます。「夢」ということ、「創める」ということ、その言葉だけでなく、会長ご自身の実践を通して深い思いのほどを教えていただきました。この機会にもう一つお聞かせいただきたいのですが、会長ご就任の最初の年の会報正月号に「長い呼息(いき)は長生きに通ず」という色紙を送ってくださいました。「呼息」という漢字にわざわざ「いき」とカナをふられたことについてお伺いしたいのですが。

A:二代目の会長村木弘昌先生とのご縁があったので会長をお引き受けしたのですが、村木先生は「呼吸とは吐くことなり」と喝破されたと聞いています。正に至言であると思っています。「呼吸」と書くように東洋の、そして日本の呼吸文化は「呼主吸従」と、息を吐くことに徹することの大切さを謳っています。調和道では「長短二息」の実修でも、いずれも呼息、吐いて吐いて吐ききることを指導していますね。

 昨年11月の調和道秋の大会で、この息法実修を坂田隆夫先生(日産厚生会玉川病院循環器科副部長・医学博士)が、脳波を測定しアルファー波が表れること、実修終了後もその状態が持続していること、また同時に測定した自律神経の働きでは副交感神経が優位になっていること。しかも息法の練達者でなくともそのような状態になることを証明してくれました。これは、協会にとって真に貴重なエビデンスであり、重要な情報発信に繋がると思います。

 しかしながら、留意しておかなければならない点があります。科学は万能ではないということです。人間ゲノムを解読するなど目覚ましい生命科学の発展はあっても、60兆もある人体の細胞の精緻な働きは未解明な領域が多分にあるという事実です。

 呼吸は生命の営みです。その営みである息を吐いて吐いて吐ききっていく。吸息は自然に任せ呼息に集中する。頭も心も空っぽにするよう、肺の中をひたすら吐きつづけ無の状態にもっていく。そうすると不思議と体躯の中に新しい活力が湧いてきて、また心の中に本来の自分が顕れてくる。生かされているありのままの自分を謙虚に受け入れる自分に気づくものです。

 正しくよい呼吸をする習慣を体得すると、身心の健康の維持向上をはかり、長寿を全うすることにもつながっていくことになります。そればかりではありません。呼吸法を学ぶことによって他者の呼吸が判ってくるようになります。息は心のありようを映すものですから、他者の心を理解して息合わせが楽にできます。ストレス社会にあって、息合わせが上手になると、コミュニケーション能力も向上すると思われます。

Q:呼吸の大事さ、その深奥の一端をお教えいただきました。会長が日頃より「呼吸法を学ぶことは生き方を学ぶこと」とおっしゃっていることも理解できました。

最後になりますが、今春で調和道協会も新制度の下公益団体に移行して5年目を迎えることになりますので、これからの調和道協会に、また、籍をおく会員実修生に望まれることについてお聞かせ下さい。

A:私が会長に就任した年の秋に「調和道息法創始百年記念集会」が開催され、その際に次のような目標を掲げました。一つは、「公益法人として、より質の高い社会貢献を果たしていくこと」、二つ目は、「小粒ながらも丹田呼吸法についての情報発信センター機能を果たしていくこと」でした。

 このことを実現するための第一歩として、新制度のもとでの公益団体への移行を実現し、また、本部道場の改修を行い確固たる土台を築いたわけです。そこで、会員のみなさんにお願いしたいのは、先ほどお話しした「夢のデザイン」、調和道協会の 10年後、20年後、30年先を念頭におき、掲げた目標を実現するためにどのようにアプローチしていくかを、みなさんでよく話し合って出した方針に力を合わせて取り組んでもらいたいということです。

 みなさんが自身の身心の健康を図るために息法を学ぶというレベルに留まっていては困ります。自利利他の精神をもって習得した息法を一人でも多くの人に普及させていく。「自分の身体は自分で守る」という共通の価値観を有する仲間づくりをする。その仲間と息を合わせ力を合わせて質の高い社会貢献を果たしていくことが必要であると思います。高齢社会、ストレス社会といわれる現在、協会の役割、会員の果たす役割は大きいと思います。

 もう一つの情報発信センターについては、先にもお話しした坂田先生の取り組みをさらに進展させ、調和道として自前のエビデンスをもつことが肝要だと思います。幸い調和道には息法に救いを求めてさまざまな人が実修に集まります。年齢、実修歴、性別、病歴などの違いをエビデンスによって実証することができるようになれば、ニーズに応じた指導メニューを創ることも考えられます。協会として大局的な立場で、さまざまな分野の科学者と協力して、呼吸が身心の健康保持にどのように寄与するかということを究明していくことが必要です。そして大切なことは、日本の呼吸文化、肚の文化として、何を伝承していくかだと思います。

 私も会員の皆さんと一緒になって調和道の夢に実現に取り組んでいきたいと思います。